
歯科医院の経営セミナーの選び方
歯科医院向けの経営セミナーは、数えきれないほど開かれています。案内を見比べても、どれも良さそうに見えて決められない。そういうご相談をよくいただきます。選べないのは情報が足りないからではありません。何を持ち帰りたいのかが先に決まっていないからです。
この記事の要点
- 経営セミナーは、成功事例型・技術型・体系型の三つに分かれる
- どれが上でもない。いまの自院に足りないほうを選ぶ
- 受講前に「持ち帰って誰に渡すか」を決めておくと実行率が変わる
戦略とは、何をやらないかを決めることである。
ポーターのこの一文は、セミナー選びにもそのまま当てはまります。案内を見比べて迷っているとき、私たちは「どれも受けたい」と考えています。しかし院長の時間は有限です。今年は何を学ばないかを決めたとき、初めて一つに絞れます。
なぜ選べないのか
経営セミナーの案内文は、どれも似た言葉で書かれています。増患、定着、自費率、生産性。書いてあることは間違っていませんし、実際どれも大事です。
だから比較ができません。比較の軸がテーマの言葉しかないと、最後は日程と価格で選ぶことになります。
選べないときは、案内の側ではなく自分の側に軸を置いてください。いま自院で起きていることは、次のどちらに近いでしょうか。
一つは、打ち手が思いつかない。売上を上げたいが何をすればよいか分からない。他院が何をしているか知りたい。
もう一つは、打ち手は分かっているのに動かない。やるべきことは見えているが、スタッフに落ちない、続かない、自分の時間が足りない。
この二つは、必要なセミナーがまったく違います。前者に体系論を持っていっても退屈ですし、後者に成功事例を積んでも「うちとは規模が違う」で終わります。
三つの型がある
歯科医院向けの経営セミナーは、中身の作られ方で三つに分かれます。
成功事例型は、うまくいった医院の話が中心です。実際の数字と、そこに至るまでにやったことを聞きます。登壇するのは院長本人であることが多く、話に熱があります。
技術型は、特定の手法を訓練します。カウンセリングの進め方、採用面接の質問設計、ホームページの原稿の書き方。その場で手を動かすものも多くあります。
体系型は、考え方の順序を扱います。数字の読み方から入り、組織、集患、財務と順に積み上げます。一回で完結せず、複数回に分かれていることがほとんどです。
この三つに優劣はありません。段階によって、要るものが違うだけです。
成功事例型が効くとき、効かないとき
成功事例型がいちばん効くのは、打ち手の引き出しが空っぽのときです。
自院のやり方しか知らない状態では、そもそも選択肢が出てきません。他院が何をどこまでやっているかを知るだけで、視界が一気に広がります。開業して数年の時期や、これまで経営の勉強をしてこなかった段階では、ここから入るのが自然です。
一方で、事例型には限界もあります。成功した医院の条件は、自院の条件ではないということです。
立地が違い、規模が違い、スタッフの顔ぶれが違い、院長の性格が違います。同じ打ち手を同じ順番でやっても、同じ結果にはなりません。
もっと重要なのは、事例として語られるのはうまくいった医院だけだという点です。同じことをやってうまくいかなかった医院は登壇しません。ですから「これをやれば伸びる」と受け取ると、判断を誤ります。
事例を聞くときは、やったことではなくなぜそれをやると決めたのかを聞いてください。その判断の理由のほうが、自院に持ち帰れます。
技術型は、やることが決まってから
技術型のセミナーは、目的がはっきりしているときに最も効率がよい選び方です。
自費のカウンセリングを整えたい。採用の面接で見るべきところを揃えたい。こうした課題がはっきりしているなら、その手法だけを半日で訓練したほうが早く、費用も抑えられます。
注意したいのは、順番を飛ばして技術から入る事例です。
たとえば自費率を上げたいと考えてカウンセリング研修を受けたとします。研修そのものは良いものだったとして、医院に戻ってから続かないことがあります。担当が決まっていない、時間が取れていない、そもそも自費を増やす理由がスタッフに共有されていない。
技術は、それを使う場所が用意されていて初めて働きます。研修を入れる前に、誰がいつやるのかを決めてください。決まっていないなら、そちらが先です。
体系型は遠回りに見えて早い
体系型は、案内を見たときの印象がいちばん地味です。すぐ使える話が前に出てこないからです。
それでも、何から手をつけるか分からない段階では、結果としていちばん早く着きます。理由は二つあります。
一つは、打ち手の順番が分かること。集患から入るか、組織から入るかで、同じ努力の効き方が変わります。順番を間違えると、増えた患者さんをさばききれずにスタッフが辞め、また採用から始めることになります。
もう一つは、条件が変わっても使えること。事例は条件がずれると使えませんが、判断の型はずれても使えます。三年後、五年後に状況が変わったときに効いてくるのはこちらです。
体系型を選ぶときは、回数と間隔を見てください。一回で終わるものは体系型を名乗っていても実際には概論です。複数回に分かれ、回と回のあいだに自院で試す時間があるかどうか。ここが実行に届くかどうかの分かれ目になります。
案内文から型を見分ける
案内文を見れば、どの型かはだいたい分かります。
成功事例型は、数字が前面に出ます。「医業収入1.8倍」「新患が月120名に」。登壇者が現役の院長で、その医院の名前が出ていれば、ほぼこの型です。
技術型は、テーマが狭く具体的です。「カウンセリング」「面接」「ホームページ」。時間が半日前後で、ワークや演習という言葉が入っていることが多くあります。
体系型は、回数が書かれています。全6回、全12回。一回ごとのテーマが並んでいて、それが順番になっている。講義の組み立てという言葉が使われます。
もう一つ、誰が話すのかも見てください。現役の院長が話すなら現場の実感が濃く、担当者や研究者が話すなら整理された枠組みが得られます。どちらが良いかではなく、いま欲しいのがどちらかです。
最後に価格です。価格は「届く深さ」と「伴走の量」でおおむね決まります。安いから浅い、高いから深いというより、自分でやる部分がどれだけ残るかの違いだと考えてください。
受講した内容を実行まで届かせる
どの型を選んでも、受けただけでは医院は変わりません。ここが最後の、そして最大の分かれ目です。
受講する前に、一つだけ決めておいてください。持ち帰ったものを、誰に渡すかです。
院長が一人で抱えると、日常業務に戻った瞬間に埋もれます。チーフでも副院長でも構いませんので、帰ってから15分話す相手を決めてから行く。それだけで実行率が変わります。
当日は、メモを二つに分けてください。一つは「知っておくこと」、もう一つは「来週やること」。後者は三つまでに絞ります。五つ書くと一つも実行されません。
帰ってからは、来週やることの一つ目に担当と期日をつけて、次の会議の議題に入れます。会議の設計については会議体を三つに分けるで詳しく書きました。
ポーターの言うとおり、戦略は何をやらないかを決めることです。セミナーで学んだことのうち、今年やらないことを決める。それができたとき、受講料は初めて回収されます。
よくあるご質問
どのセミナーを受ければよいか分かりません。
まず「打ち手が思いつかない」のか「打ち手は分かっているが動かない」のかを分けてください。前者なら事例型、後者なら体系型が効きます。手順そのものを覚えたいときだけ技術型です。
一度受ければ変わりますか?
一日のセミナーで変わるのは、院長の頭のなかだけです。医院が変わるのは、そこで決めたことを翌週に一つ実行したときです。受講前に「持ち帰って誰に何を渡すか」を決めておくと、実行率が大きく変わります。
高額なセミナーほど効果がありますか?
価格は、届く深さと伴走の量で決まります。自院の課題がはっきりしているなら安価な単発で足りますし、何から手をつけるか分からない段階では体系的な講座のほうが結果的に早く済みます。
スタッフも一緒に連れて行くべきですか?
技術型なら実際に手を動かす人を連れて行ってください。体系型は院長が一人で受け、持ち帰ったものを自院の言葉にしてから渡すほうが定着します。
この記事のまとめ
- 経営セミナーは、成功事例型・技術型・体系型の三つに分かれる
- 打ち手が思いつかないなら事例型、動かないなら体系型
- 技術型は、やる人とやる時間が決まってから
- 受講前に、持ち帰ったものを渡す相手を決めておく
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