
一人が見られる人数には上限がある
スタッフが増えたのに、一人ひとりを見られている感じがしない。面談の予定が押していく。気づけば半年、話せていない人がいる。この状態を、忙しさや自分の怠慢のせいだと考えている院長は少なくありません。しかし、これは人数の問題です。一人が直接見られる人数には、はっきりした上限があります。
この記事の要点
- 一人が直接見られるのは5人から7人まで
- 離れている人ほど、見られる人数は減る
- 人が増えたら層を深くせず、横に増やす
管理の幅には限界がある。人が扱えるのは、せいぜい六つか七つの関係である。
アーウィックは、一人の上司が直接扱える部下の数には上限があるとし、その根拠を「人数」ではなく「関係の数」に求めました。部下が6人なら、上司と部下の関係だけでなく、部下どうしの関係も目に入ります。人数が一人増えるだけで、見なければならない関係の数は跳ね上がります。面談が回らなくなるのは、人数が線形に増えているのに、見る対象が線形以上に増えているからです。
面談が押していくのは、当たり前のこと
月に一度、一人30分の面談をするとします。スタッフが6人なら3時間です。診療の合間に確保できる範囲でしょう。
これが14人になると7時間になります。一日分の診療を止めないと取れません。結果として、面談は「時間があるときに」になり、そのうち消えます。
消えたことに気づくのは、誰かが辞めると言ってきたときです。話していれば拾えた兆しが、拾えていなかった。
これは院長の怠慢ではありません。7時間を毎月ひねり出せる院長はいません。設計の問題です。
目安は5人から7人
一人が直接見られる人数は、5人から7人が目安です。ここでいう「見る」は、日々の指示を出すことではなく、面談をして、評価をして、育成の方針を持つことです。
この人数を超えると、まず面談の頻度が落ちます。次に、評価が印象で決まるようになります。最後に、誰が何に困っているか分からなくなります。
指示を出すだけなら、もっと多くても回ります。だから人数が増えても、しばらくは問題が見えません。問題が表に出るのは、辞める人が出たときか、評価に不満が出たときです。
5人か7人かは、仕事の複雑さで変わります。同じ仕事を同じようにする人が並んでいるなら7人まで。仕事の内容がばらばらなら5人までと考えてください。
距離が離れると、さらに減る
同じフロアで毎日顔を合わせているなら、7人でも見られます。しかし物理的に離れると、この数字は下がります。
訪問診療の担当者、分院のスタッフ、週2日だけ来るパートの方。こうした人たちは、廊下ですれ違うことがありません。意識して時間を取らないと、まったく話さないまま数か月が過ぎます。
離れている人が含まれる場合は、3人から5人と見てください。同じ人数でも、かかる時間と手間が違います。
分院を出すときに、この点を見落とすことが多くあります。院長が二つの医院を往復しながら全員を見ようとすると、どちらも中途半端になります。分院を出す前にセカンドラインが要るというのは、この理由からです。
層を深くするか、横に増やすか
人数が上限を超えたとき、直し方は二つです。層を一段増やすか、横に並べるか。
層を深くすると、院長 → 副院長 → 主任 → チーフ → 現場、という形になります。一見整理されて見えますが、伝言が四回を経ることになります。現場で起きたことが院長に届くまでに、角が取れて別の話になります。途中の層は「伝えるだけの人」になり、本人のやりがいも失われます。
横に増やすと、院長 → セカンドライン3人 → 各5人、という形になります。伝言は二回で済みます。セカンドライン3人は互いに相談でき、一人が抜けても残りの二人で持ちこたえられます。
歯科医院の規模では、横に増やすほうがほぼ正解です。層を増やすのは、30名を超えたあたりからで足ります。
自分の人数を数えてみる
いま、院長が直接見ている人は何人でしょうか。組織図の上ではなく、実際に面談をして評価をしている人の数です。
数えてみると、組織図より多いことがほとんどです。主任がいるのに、主任の部下からも直接相談が来ている。副院長がいるのに、勤務医の面談は院長がやっている。
この「実際の人数」が、いまの負荷です。10人を超えているなら、面談が回らないのは当然です。
セカンドライン側も同じように数えてください。主任が8人を見ているなら、そこも上限を超えています。院長だけを見て直しても、下の層で詰まります。
増やす前に、渡しておく
採用を決める前に、その人を誰が見るのかを決めてください。ここを決めずに採ると、結局は院長が見ることになります。
見る人がいないなら、採用より先にセカンドラインを育てるほうが順番として正しいことになります。急いで採った人が、見てもらえないまま一年で辞めるというのは、よくある流れです。
面談が回らないと感じたら、自分を責める前に人数を数えてください。アーウィックの言うとおり、扱える関係の数には限界があります。限界を超えているなら、直すのは気持ちではなく構造です。
よくあるご質問
一人で何人まで見られますか?
5人から7人が目安です。訪問診療や分院があり物理的に離れている場合は、3人から5人に下げます。
院長が全員を直接見てはいけませんか?
スタッフ7名までなら可能です。それを超えると、回っているように見えても一人あたりの時間が短くなっているだけのことが多いです。
層を増やすのはどんなときですか?
30名を超えたあたりからです。それ以下なら横に増やすほうが機能します。
この記事のまとめ
- 一人が直接見られるのは5人から7人。超えると面談から先に落ちる
- 訪問診療や分院など離れている人がいると、3人から5人に下がる
- 人が増えたら層を深くせず、セカンドラインを横に増やす
- 層を増やすと伝言が四回を経て、現場の声が届かなくなる
- 組織図ではなく、実際に面談している人数を数えてみる
- 採用を決める前に、その人を誰が見るのかを先に決める
自院の人数から適正な形を考えるのが組織設計論です。2027年1月31日(日)に開催します。
