
「誰でもできるように」したら、ミスが増えた
こんにちは。デンタルMBAの萩原直樹です。
今回は、「誰でもできるようにしたはずなのに、なぜかミスが増える」というお話です。
まず、ある医院で起きたことからお読みください。
受付で起きたこと
その日の午後、受付の奥で小さな声がした。
「……すみません。また、間違えました」
3年目の歯科助手が、会計の控えを手に立っていた。金額を打ち間違えて、患者さんに多くお支払いいただいてしまったという。お帰りになる前に気づけたのが、せめてもの救いだった。
院長はその場では何も言わなかった。言えなかった、というほうが近い。彼女が手を抜く人でないことは、誰よりも知っていた。
ただ、似たようなことが、この3か月で4回目だった。
その夜、診療を終えてから、院長は当番表を広げた。
受付は5人で回している。誰かが辞めても困らないように、全員ができるようにしてきた。何年もかけて、そうしてきたのだ。
指でたどりながら、院長は手を止めた。
彼女がこの1か月で受付に入ったのは、2回だった。
※ 実際にうかがったお話をもとにした物語です。医院名・人物名は変えています。
属人化をなくした結果、何が起きたか
この医院は、数年かけて「誰でもできる医院」を作り上げてきました。
受付も、カウンセリングも、アシストも、事務も。全員がどの業務も回せるようにする。特定の人がいないと止まってしまう、という状態をなくすためです。
とても真っ当な考え方だと思います。私自身、そうお伝えしてきました。
ところが、ここに落とし穴がありました。
全員が全ての業務を担当するということは、一人あたりの経験回数が減るということなのです。
受付を5人で回せば、一人が入るのは週に1回あるかないか。その週1回で、予約の取り方の細かいルール、会計、返金、エラーチェックまで、すべてを正確にこなさなければなりません。
これは、できません。ミスをしたスタッフの能力の問題ではないのです。
そして、いちばん苦しんでいるのは本人です。
「またやってしまった」
「自分だけができていない気がする」
仕組みの問題なのに、本人が自分を責めている。これがいちばん、もったいないことだと思います。
分けるべきは「止まると困る業務」と「間違うと困る業務」
ここで整理が必要です。医院の業務には、2種類あります。
ひとつは、その人がいないと止まる業務。一人しかできない処置、一人しか知らない手順。これは確実に広げるべきです。属人化を解消します。
もうひとつは、間違うとお金や信用に関わる業務。受付の会計、返金、保険の確認。こちらは逆なのです。担当をある程度絞り、回数を積ませたほうが安全です。
この医院は、すべてを同じ考え方で扱っていました。そこにつまずきがありました。
「その人が辞めたらどうするのか」
当然、こうお尋ねになると思います。
ですから、メインとサブの2人体制にします。主に担当する人と、その人が休んだときに入る人。3人目は置きません。3人にした時点で、また一人あたりの経験回数が減ってしまうからです。
この医院では、次の手順で進めています。
- 受付業務のメイン担当・サブ担当を決める
- 土曜日など、受付が一人になる曜日の配置を見直す
- 会計、返金、エラーチェックについて、確認する人を一人決める
- 予約の取り方のルールを書き出し、いつでも参照できるようにする
特に最後の項目です。アポイントの取り方は、治療内容・担当者・チェア・時間帯によってルールが変わります。書き出してみると、たいていの医院で30項目を超えます。
それを、月に2回しか受付に入らない人が、頭の中だけでさばいている。ミスが起きないほうが不思議だと思いませんか。
属人化は「悪」ではありません
私は長いあいだ、属人化はなくすべきだとお伝えしてきました。
今は、こうお伝えしています。
止まると困る業務は、広げる。間違うと困る業務は、狭くして、深くする。
先生の医院の業務を、この2つに分けてみてください。おそらく今は、すべてを同じように扱っているはずです。分けるだけで、ミスの出方は変わってきます。
そして何より、「また間違えました」と言いに来るスタッフを、これ以上つくらずに済みます。
組織設計論を、体系立てて学ぶ
こうした考え方を半日かけて扱うのが、デンタルMBAの「組織設計論」です。2027年1月31日に横浜で開催します。院長先生だけでなく、主任やチーフ、事務長の方もご一緒に受講いただけます。
