
分院展開を決める前に確認すべきこと
分院を出すかどうかは、資金が用意できるかどうかでは決まりません。いまの医院が院長なしで回っているかどうかで決まります。ここを確かめずに2医院目を出すと、院長が2つの医院を往復するだけになります。
この記事の要点
- 分院の成否は、立地よりも任せられる人がいるかで決まる
- 1院目が院長依存のままなら、2院目で両方が崩れる
- 出すか出さないかの前に、いま任せられる範囲を測る
戦略とは、何をやらないかを決めることである。
ポーターは、トレードオフを引き受けない戦略は戦略ではないと述べています。分院を出すという判断は、いまの医院に割く時間を減らすという判断とセットです。
1医院目が答えを持っている
分院展開がうまくいくかどうかは、2医院目の立地や設備よりも、1医院目の状態で決まります。
1医院目が院長個人の技術と判断で回っているなら、その医院は複製できません。複製できるのは仕組みだけだからです。同じ状態のまま2医院目を出すと、院長の時間が半分になり、両方の医院が中途半端になります。
よくあるのは、1医院目が好調だから2医院目を、という順序です。しかし好調の理由が院長自身にある場合、2医院目を出した瞬間に1医院目の好調が崩れます。増えるはずだった売上が、実際には移動しただけということも起こります。
確かめ方は、院長が1か月抜けること
確かめるべきことは単純です。院長が1か月不在でも、1医院目の売上と患者満足が落ちないかどうか。
実際に1か月休むのが難しければ、週2日から始めても構いません。院長が診療に入らない日をつくり、その日の数字と患者からの反応を見る。落ちるなら、まだ渡せていない判断が残っています。何が起きたかを記録しておくと、渡すべきものが具体的に見えてきます。
この試験は、分院を考えていない医院にとっても意味があります。院長が倒れたときに医院が続くかどうかと、同じことを確かめているからです。分院展開の準備は、結果として医院の耐久性を上げます。
診療圏は「人口」より「選ばれる理由」
立地の検討では、人口と競合数だけを見がちです。しかし見るべきはもう一歩先にあります。その地域で、自院が何を理由に選ばれるのかです。
1医院目が自費診療で選ばれているのか、通いやすさで選ばれているのか、特定の診療内容で選ばれているのか。選ばれている理由が地域特性に依存しているなら、別の地域では同じようにいきません。所得水準の高い地域だから自費が伸びていたのであれば、その条件のない場所に同じ形を持ち込んでも通用しません。
理由が仕組みや技術にあるなら、移せます。カウンセリングの質で選ばれているのであれば、その進め方を言葉にして教えられます。1医院目がなぜ選ばれているかを言葉にできないうちは、2医院目の立地は選べません。
人口が多く競合が少ない場所が空いているとしたら、そこには空いているだけの理由があります。数字だけを見て決めると、その理由に後から気づくことになります。
人が先か、場所が先か
分院長を誰にするかは、物件を決める前に考える論点です。外から採用するのか、いまいる勤務医を育てるのか。この2つでは準備にかかる時間がまったく違います。
内部から出す場合、その人が抜けた穴を1医院目で埋める必要があります。つまり分院を出す1年以上前から、1医院目の増員と育成が始まっていなければ間に合いません。
外から採用する場合は、その人が医院の方針を理解するまでの期間が要ります。技術があっても、任せ方の合意ができていなければ、開院直後から擦れ違いが起きます。採用してすぐ分院長にするのは、最も危うい進め方です。
物件が先に決まってから人を探すと、期日に追われて条件を下げて採用することになります。そこから苦しくなる例は少なくありません。人の準備が整った時期に、条件の合う物件を探す。この順序のほうが、結果として早く進みます。
財務は最悪の想定で見る
分院の事業計画は、うまくいった場合の数字で作られがちです。しかし判断に必要なのは、想定どおりにいかなかった場合に1医院目まで傾かないかどうかです。
2医院目が黒字化するまでの期間を想定の倍で見て、その間の赤字を1医院目の利益で支えきれるか。支えきれないなら、時期が早いという結論になります。
見落とされやすいのが、1医院目の利益が落ちる前提を入れていないことです。院長の時間が分散し、中心となる勤務医が移れば、1医院目の売上は一時的に下がります。両方が同時に下がる期間を想定に入れておかないと、計画は成り立ちません。
分院展開は攻めの判断であると同時に、1医院目を守れる範囲で行う判断でもあります。
出さないという判断も戦略
分院を出さないという選択も、立派な戦略です。1医院を深めることで到達できる水準があります。設備、技術、スタッフの練度。分散させないからこそ積み上がるものがあります。
問題は、出すか出さないかを考えないまま時間が過ぎることです。周りが出しているから焦る、あるいは考えるのが面倒だから先送りする。どちらも判断ではありません。
出すなら何を準備するのか、出さないなら何を深めるのか。どちらかを決めて、そこに資源を集めることが判断です。決めていない状態がいちばん消耗します。
よくあるご質問
分院を出す目安の売上はありますか?
金額より、院長が1か月不在でも1院目が回るかどうかが目安になります。数字が足りていても、人が育っていなければ続きません。
分院長は外部から採用すべきですか?
外部採用も選択肢ですが、理念と判断基準の共有に時間がかかります。内部から育てる場合は、任せる範囲を段階的に広げる期間が必要です。
1院目と2院目で同じやり方は通用しますか?
通用しません。1院目は院長の目が届きますが、2院目は仕組みで回す必要があります。この違いを先に設計しておくことが要点です。
この記事のまとめ
- 分院展開の成否は、2医院目の立地より1医院目の状態で決まる
- 院長が抜けても1医院目の売上と患者満足が落ちないかを実際に試す
- 立地は人口と競合数ではなく、自院が選ばれている理由が移せるかで判断する
- 分院長の準備は物件より先。内部から出すなら1年以上前から始める
- 計画は最悪の想定で見る。1医院目の一時的な落ち込みも織り込む
この論点を体系的に扱うのは組織設計論です。
