
勤務医が育たない医院の見分け方
採用した勤務医が伸びない。任せられないまま数年が過ぎ、結局は辞めていく。原因は本人の資質より、任せ方の設計にあることがほとんどです。
この記事の要点
- 勤務医が育たない医院は、任せる・伝える・見通しの3点が抜けている
- 院長が自分でやったほうが早いという判断は、長期では確実に損になる
- 育つ順番には型がある。段階を飛ばすと本人も周囲も苦しくなる
人は経験からではなく、経験の振り返りから学ぶ。
任せるだけでは育ちません。任せたあとに一緒に振り返る時間があって初めて、経験は次の判断に変わります。
「自分でやったほうが早い」の代償
難しい症例を院長が引き取る。その日の生産性は上がります。しかし勤務医はその症例を経験できません。これを繰り返すと、三年経っても任せられる範囲は広がりません。
短期の効率と長期の育成は、多くの場面で逆を向きます。どちらを取るかは判断ですが、判断していない医院が多いのが実情です。目の前が忙しいという理由で、毎回短期が選ばれます。
育成は、時間を投じて後から回収するものです。回収までの期間を見込まずに始めると、途中で費用対効果が悪く見えて止めてしまいます。
任せる範囲が決まっていない
任せるとは、判断を渡すことです。作業だけを渡しても育ちません。
どの症例までを自分の判断で進めてよいのか。どうなったら相談するのか。この線引きが言葉になっていないと、勤務医は毎回確認するか、確認せずに進めて後で指摘されるかのどちらかになります。どちらも育ちません。
線引きは最初から広くする必要はありません。狭くていいので明確にすること。そして、できるようになったら広げていくこと。広げる基準まで示せると、本人が自分の現在地を把握できます。
評価の伝え方が結果論になっている
結果がよくなかったときにだけ指摘する。これは指導ではなく事後の評価です。本人は何を変えればよいか分かりません。
有効なのは、判断の過程に対する言葉です。なぜその方針を選んだのか、他にどんな選択肢を考えたのか。過程を言葉にさせると、次に似た場面で応用できます。結果だけを指摘すると、萎縮して判断を避けるようになります。
これは臨床に限りません。経営の判断でも同じです。判断の筋道を共有することが、最も移転しやすい技術になります。
三年後の姿が見えているか
勤務医が辞めるとき、直前の不満が語られることが多いのですが、多くの場合は見通しの問題です。
この医院にいると三年後に何ができるようになるのか。任される範囲はどう広がるのか。将来的に分院を任される道はあるのか、あるいはないのか。示されていないと、本人は外に答えを探します。
道がないなら、ないと伝えることも誠実です。曖昧にしたまま引き止めるほうが、結果として双方の時間を失います。
育つ医院に共通する3つの習慣
ひとつめは、症例を意図的に配ること。難易度と本人の段階を見て、少し背伸びする症例を渡します。偶然に任せないことが習慣の中身です。
ふたつめは、短くても定期的に話す時間があること。月に一度、三十分でも構いません。困っていることと、次に挑戦することを確認する場です。
みっつめは、院長自身が学び続けていること。院長が学ばない医院で、勤務医だけが学ぶ文化は育ちません。これは姿勢の問題ではなく、環境の問題です。
見分け方のチェック
自院がどちらに近いかは、いくつかの問いで確かめられます。
勤務医が自分の判断で進めてよい範囲を、本人の言葉で説明できるか。この一年で任される範囲が広がったか。院長と一対一で話す時間が定期的にあるか。三年後の姿を本人が描けているか。
このうち二つ以上に自信を持って「はい」と言えないなら、育っていないのは本人の問題ではありません。設計を変えることで動く部分が、まだ残っています。
よくあるご質問
勤務医にどこまで任せてよいですか?
失敗しても戻せる範囲から渡してください。範囲を先に言葉で伝えることが、任せると丸投げの分かれ目です。
評価の伝え方はどのくらいの頻度が必要ですか?
月1回の面談より、週に一度の短い振り返りのほうが効きます。時間の長さより間隔です。
勤務医が独立してしまいます。
独立自体は防げません。ただし、育つ過程で医院の判断基準を共有できていれば、独立後も紹介や連携の関係が続きます。
この記事のまとめ
- 「自分でやったほうが早い」を繰り返すと、任せられる範囲は広がらない
- 任せるとは判断を渡すこと。線引きは狭くてよいので明確にする
- 評価の伝え方は結果ではなく判断の過程に対して行う
- 勤務医が辞める理由の多くは直前の不満ではなく、三年後の見通しの欠如
- 症例を意図的に配り、定期的に一対一で話し、院長自身も学び続ける
この論点を体系的に扱うのは人材マネジメント論です。
