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一日に何十回も呼ばれる院長が、最初に数えたもの

診療中の院長に発注・予約・欠員の相談が次々と集まり、手を止めている様子を示した図

スタッフは増えた。設備も入れた。それでも自分の忙しさだけが変わらない。そうおっしゃる院長先生は少なくありません。いちばん多いのは、とにかく落ち着いて考える時間がない、という言葉です。手が足りないのではありません。判断が院長先生のところに集まっているだけです。増やしても楽にならないのは、増やすべきものが人ではなかったからです。減らすべきなのは、仕事の量ではなく中断の回数です。

この記事の要点

  • 疲れの正体は量ではなく、診療中に入る中断の回数
  • 決めてよい線を金額と場面で引くと、聞きに来る必要が半分近く消える
  • 院長の一週間を棚卸しし、診療と考える時間を予定表に先に置く

時間は借りることも、雇うことも、買うこともできない。

ピーター・ドラッカー経営学者

時間だけは、あとから足すことができません。院長先生が増やせるのは時間ではなく、その使い方の順番だけです。だから最初にやることは、働く時間を増やすことではなく、いまの時間が何で埋まっているかを見ることになります。

疲れの正体は、仕事の量ではなく中断の回数

院長先生の一日には、診療のほかに数十の判断がはさまります。材料の発注をどうするか、この患者さんの予約をどこに入れるか、欠員の日をどう回すか。一つ一つは一分で終わるものです。

問題は、その一分が診療の合間に入ってくることです。呼ばれて手を止め、答えて戻る。戻ったときには、さっきまで考えていたことが飛んでいます。同じ思考をもう一度立ち上げるところから始め直すことになります。

夕方に一日の記憶がぼんやりしているのは、集中力が落ちたからではありません。大事な判断と材料の在庫の話が、同じ重さで頭に入ってくるからです。頭は、重さの違いを勝手に分けてはくれません。

だから、減らすべきものは仕事の量ではありません。中断の回数です。ここを取り違えたまま人を一人増やしても、聞きに来る人が増えるだけで、院長先生はかえって忙しくなります。

声をかけられた内容を、院長が決めるもの・誰でも決めていいもの・ルールを作れば要らないものの三つに分けた図
分けてみると、院長が決めるべきものは二割ほどでした。

まず三日間、呼ばれた内容をメモする

弊社が支援したある医院で、診療中に声をかけられる回数を三日間だけ数えていただきました。スタッフ十数名、開業から十五年ほどの医院です。少ない日でも四十回近く、多い日は六十回を超えていました。

中身は、材料の発注、予約の差し込み、患者さんへの説明の確認などでした。どれも聞かれれば数十秒で答えられるものです。だからスタッフも遠慮なく聞きに来ますし、院長先生も答えてしまいます。そのほうが早いからです。

メモがたまったところで、三つに分けました。院長が決めるもの、誰でも決めていいもの、ルールを作れば要らないもの。分けてみると、院長が決めるべきものは全体の二割ほどでした。半分近くは、線を一本書くだけで聞く必要がなくなるものでした。

数えるだけなら、明日から始められます。手を打つ前に、自分の一日が何で埋まっているかを見る。これが順番として先です。同じところから始めたほかの医院の話は、お悩み別の解決事例集にまとめています。

決めてよい線は、金額と場面で引く

渡せていない理由は、たいてい二つです。一つは、渡す先が決まっていないこと。気づいた人がやる、で回してきた医院では、最後に気づくのはいつも院長になります。もう一つは、どこまで決めてよいかを伝えていないことです。線が分からなければ、スタッフは全部聞きに来ます。

線の引き方は粗くて構いません。一回一万円までの消耗品の発注は担当が決めてよい。当日枠が空いていれば受付が予約を入れてよい。急な欠員は当番表の順に声をかけ、院長には報告だけでよい。決まった説明は紙のとおりに話してよい。金額か場面のどちらかが書いてあれば、人は動けます。

この医院で線を紙に書いたとき、安心したのはスタッフのほうでした。勝手に決めて怒られるのが怖いから聞いていた、ということでした。判断を避けていたのではありません。聞きに来るのは意欲の問題ではなく、聞きに来るのが正しい医院になっているだけです。

それでも院長の判断が必要なものは残ります。そこは、昼と診療後の二回にまとめて持ってくる形にしました。三か月後、声をかけられる回数は一日十回ほどに減りました。減ったのは仕事の量ではなく、中断の回数です。院長先生の言葉では、頭の中が静かになった、とのことでした。

院長の一週間を棚卸しする

別の医院では、休めないとおっしゃる院長先生に、一週間の使い方を三十分ごとに書き出していただきました。スタッフ二十名ほど、分院を一つ持ち、休診日も医院にいることが多い院長先生です。ご自身の認識は、ほとんど診療に入っている、でした。実際に診療に使っていた時間は、全体の半分もありませんでした。

多かったのは、名前のつかない時間です。相談を受ける、探し物を手伝う、業者と立ち話をする、途中で呼ばれて戻る。一件は短いのですが、合わせると一日の三分の一ほどになっていました。そして、医院のことを考える時間はゼロでした。予定表に入っていないものは、いちばん最後に回されます。回されたまま一年が過ぎていました。

やったのは、順番を変えただけです。空いたところに診療を入れるのをやめて、診療に入る時間と考える時間を先に置き、残りで雑務を受けることにしました。最初の二週間はうまくいきませんでした。予定に入れても呼ばれるからです。三週目に幹部スタッフが、その時間は私が受けます、と言い出して、ようやく動き始めました。

半年後、この院長先生は週に半日、医院を離れる時間を取れるようになりました。増えたのは時間ではなく、先に置いたか後に回したかの違いだけです。棚卸しは一週間で足ります。何に使うかの決め方は、院長の時間の使い方を見直すで詳しく扱っています。

渡せる人は、たいてい医院の中にいる

任せられる人材がいない、というご相談も多くいただきます。伺ってみると、いないのではなく、渡し方が決まっていないことがほとんどです。ある医院では、過去に何度か任せようとした形跡がありました。いずれも途中で院長先生が引き取っています。理由は、思ったとおりにならなかったから、でした。

任せたつもりで渡したのは、仕事そのものだけでした。どこまで決めてよいか、どうなったら相談するか、いつ確認するか。この三つを一緒に渡していません。これでは、渡された側は動けません。動けないので確認が来て、確認が来るから院長先生が引き取る、という流れになります。

早道は、渡さないものを先に決めることです。数字の管理と方針、そしてスタッフの評価と給与。ここは最後まで院長の仕事だと考えてください。渡さない線が引けると、残りは全部渡してよいものになります。迷う対象が一気に減ります。

この医院は、渡す相手を外から採っていません。もともといた事務のスタッフに、少しずつ範囲を広げてもらいました。半年で業者とのやりとりと備品の契約は手を離れ、シフトの調整は案を作ってもらって院長が見るだけになりました。渡す先の役割そのものは、事務長を置く前に決める三つのことで整理しています。

よくあるご質問

回数を数えるのは、スタッフに気を使わせませんか?

目的を先に伝えてください。誰が何回聞いたかを調べるのではなく、聞かなくてよいことを減らすために数えると言えば、協力してもらえます。実際に数えた医院では、スタッフのほうから、これは聞かなくていいはずだという声が出てきました。

線を引いたのに、まだ聞きに来ます。

線の内側で出た判断を、あとから覆していないか確かめてください。一度覆すと、次から全部確認が来ます。結果が思わしくなくても、線の内側の判断はその場では受け止めて、線の引き直しとして別に扱ってください。

一週間の棚卸しは、正確に書かないと意味がありませんか?

正確さは要りません。三十分ごとに一行書くだけで十分です。名前のつかない時間がどれだけあるかが分かれば、それで目的は果たせます。細かく書こうとすると、その作業自体が続かなくなります。

この記事のまとめ

  • 疲れの正体は仕事の量ではなく、診療の合間に入る中断の回数
  • 三日間、声をかけられた内容をメモし、院長が決めるもの・誰でも決めていいもの・ルールで消えるものに分ける
  • 決めてよい線は金額か場面で粗く引き、残った判断は一日二回にまとめて受ける
  • 一週間を棚卸しし、診療と考える時間を予定表に先に置く。渡さないものを決めれば、渡せる人は医院の中にいる

この論点を体系的に扱うのが組織設計論です。2027年1月31日(日)に開催します。

萩原 直樹

この記事を書いた人

萩原 直樹経営学修士(MBA)/デンタルMBA 講座総括

歯科医院の経営を支える専門家として、全国の医院の経営支援に従事。戦略設計から組織構築、財務改善まで、経営の全体最適を支援する。

判断の質を上げることが、医院の未来を守る。

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