
新人は、最初の90日で決まる
せっかく採用できたのに、3か月で辞めてしまった。こうした経験のある院長は少なくありません。辞める理由を聞くと「思っていた仕事と違った」「職場に馴染めなかった」という答えが返ってきます。けれども多くの場合、その原因は採用の段階ではなく、入ってからの90日の過ごし方にあります。
この記事の要点
- 新人は、最初の90日で「続けるかどうか」をほぼ決めている
- 1週目は居場所、1か月は役割、3か月は手応え。必要なものが順に変わる
- 教える内容より先に、いつ・誰が・何を確かめるかを決めておく
松下電器は人をつくる会社です。あわせて電気製品もつくっています。
松下幸之助は、製品より先に人を育てることを会社の役割と考えていました。歯科医院も同じで、患者さんに向き合うのはスタッフです。新人を迎え入れる最初の90日は、その医院が人をどう育てるかが最もはっきり表れる時期です。
3か月で辞める人が見ているもの
新人は、入ってからの数週間、医院のあらゆることを見ています。仕事の内容だけではありません。困ったときに誰が助けてくれるか、自分はここにいてよいのか、ちゃんと役に立てているのか。
この三つに答えが見つからないまま3か月が過ぎると、新人は「ここでは続けられない」と判断します。辞めると言い出すのは3か月目でも、気持ちが離れ始めるのはもっと早い時期です。
反対に、この三つに答えが見つかると、多少仕事が大変でも続けてくれます。受け入れの計画とは、この三つの答えを、適切な時期に渡していく計画のことです。
初日と1週目 居場所をつくる
最初の1週間で新人に必要なのは、居場所です。技術や手順を覚えることより、ここにいてよいと感じられることが先です。
初日には、担当の先輩を一人決めて紹介してください。「分からないことはまずこの人に聞いてください」と伝えるだけで、新人の不安は大きく減ります。誰に聞けばいいか分からない状態が、最初の数日で最もつらいことだからです。
もう一つ、院長から伝えてほしいことがあります。なぜこの人を採用したのかです。「面接で、困ったことをその日に相談できると話していたのが良かった」。こうした一言が、新人にとって医院に居てよい理由になります。
1週目は、毎日5分だけ担当者と振り返りの時間を取ってください。その日できたことを一つ、担当者が言葉にして返します。できなかったことの指摘は、この時期はほどほどで構いません。
1か月 役割を渡す
1か月が経つころ、新人に必要なものは役割に変わります。いつまでも誰かの手伝いのままでは、自分がここにいる意味を感じられません。
この時期に、任せる業務を一つ決めて渡してください。大きな仕事である必要はありません。「器具の在庫の確認は、今月からあなたの担当です」。小さくても、担当として持たせることが大事です。
手伝いと担当の違いは、やり方を自分で決められるかどうかです。担当として渡したら、やり方にはなるべく口を出さないでください。多少非効率でも、自分で工夫する余地があることが、役割を持っている実感につながります。
任せ方の考え方は院長が権限をどこから渡すかでも扱っています。新人に対しても、考え方は同じです。
3か月 手応えを言葉にする
3か月目には、院長が30分の面談を行ってください。ここで新人に必要なものは手応えです。
面談では、3か月でできるようになったことを一緒に並べます。本人は、自分が何をできるようになったかを意外と覚えていません。「最初はアシストで手が止まっていたけれど、今は先回りして準備できている」。具体的に言葉にすると、本人の中で成長が形になります。
そのうえで、次の3か月の目標を一つ決めます。ここからは、人事評価の面談と同じ進め方です。詳しくは歯科医院の人事評価は、給与のためにつくらないをご覧ください。
一つ注意したいのは、この面談を試用期間の判定の場にしないことです。判定の場だと感じると、新人は本音を話せません。続けてほしいと伝える場として使ってください。
担当者を一人に決める
受け入れがうまくいかない医院に多いのは、全員が少しずつ教えている状態です。一見、医院全体で新人を支えているように見えますが、実際には誰も責任を持っていません。
全員が少しずつ教えると、人によって言うことが違います。新人は、どれが正しいのか分からずに混乱します。そして、誰に相談すればいいのかも分からなくなります。
担当者は一人に決めてください。向いているのは、いちばん仕事ができる人ではなく、入職2〜3年目の人です。新人のつまずきを最近経験しているので、何が分からないかが分かります。
担当者にとっても、教える経験は成長の機会になります。教えることで、自分がなんとなくやっていたことを言葉にする必要が出てくるからです。受け入れの仕組みは、新人のためであると同時に、次のリーダーを育てる仕組みでもあります。
よくあるご質問
教える担当は誰にすればよいですか?
最も仕事ができる人ではなく、入職2〜3年目の人が向いています。新人のつまずきを最近経験しているので、何が分からないかが分かります。担当者自身の成長にもつながります。
マニュアルは必要ですか?
あると助かりますが、最初から完璧なものを目指す必要はありません。新人に教えながら、聞かれたことを書き足していくと、半年ほどで使えるものになります。新人自身に書いてもらうのも効果的です。
経験者でも受け入れの計画は要りますか?
要ります。経験者は技術があるぶん、医院のやり方との違いに戸惑いやすく、それを言い出しにくい立場にあります。技術の説明は省いても、担当者と1か月・3か月の面談は同じように行ってください。
この記事のまとめ
- 新人は最初の90日で、続けるかどうかをほぼ決めている
- 1週目は居場所、1か月は役割、3か月は手応え。時期によって必要なものが変わる
- 初日に担当者を紹介し、院長からなぜ採用したかを伝える
- 担当者は一人に決める。入職2〜3年目の人が向いている
この論点を体系的に扱うのが人材マネジメント論です。2027年3月28日(日)に開催します。
