
歯科医院の組織図のつくり方
組織図をつくってください、と言うと、たいてい役職を並べた図が出てきます。院長がいて、副院長がいて、主任がいて、その下にスタッフが並ぶ。きれいな図です。ただ、その図があっても判断は院長に戻ってきます。役職が書いてあるだけで、誰が何を決めてよいかが書かれていないからです。
この記事の要点
- 組織図は人員表ではなく、判断の道筋を描いた図である
- 箱に役職ではなく「ここで決めてよいこと」を書く
- 書けない箱が、いま院長に判断が戻っている場所
組織は戦略に従う。
チャンドラーは、事業のやり方が変われば組織の形も変わらざるを得ないことを、企業の歴史から明らかにしました。裏を返せば、どこへ向かうかが決まっていない医院の組織図は、描いても形が定まりません。組織図を描く作業は、これから何を増やし何をやめるのかを決める作業と、必ず対になります。
組織図は、人の並びではなく判断の地図
多くの医院にある組織図は、誰がどこに所属しているかを示した図です。これは人員表であって、組織図ではありません。
組織図が答えるべき問いは一つです。この件は、誰が決めてよいのか。材料を切り替えるとき、シフトを変えるとき、新人の教育方針を決めるとき。その都度、誰に聞けばよいのかが図から読み取れること。それが機能する組織図です。
院長が現場を離れられない医院では、この問いへの答えが全部「院長」になっています。役職はあるのに、決めてよい範囲が渡されていない。だから主任もチーフも、判断のたびに院長を探すことになります。
描く前に、一週間の判断を書き出す
組織図をいきなり描こうとすると、また役職の図になります。先にやることは、判断の棚卸しです。
一週間、院長のところに上がってきた相談をすべてメモしてください。「この患者さんのアポをどうするか」「材料が切れそうです」「新人にどこまで任せてよいか」。内容と、相手と、かかった時間。それだけで構いません。
一週間続けると、たいてい四十件から六十件たまります。その一覧を眺めると、自分の時間が何に使われているかがはっきり見えます。そして、そのうちの半分以上は、院長でなくても決められることのはずです。
この一覧が、組織図の材料になります。図を先に描いて人を当てはめるのではなく、実際に起きている判断を先に並べて、それをどこに置くかを決める。順番が逆になると、絵に描いた組織になります。
箱に書くのは役職ではなく、決めてよいこと
棚卸しができたら、図を描きます。このとき、箱の中に役職名だけを書かないでください。役職名の下に、その箱で決めてよいことを一行から二行で書き添えます。
「主任/シフトの確定、材料発注(10万円まで)」。この一行があるだけで、主任は院長に聞かずにシフトを組めます。金額の上限を書いておけば、その範囲内で迷わず動けます。
書こうとして書けない箱が出てきます。それが、いま院長に判断が戻っている場所です。書けないのは、渡していないからです。責めるべき相手はいません。設計されていなかっただけです。
三つの層に分ける
層は三つで足ります。院長、セカンドライン、現場です。四層、五層と増やしたくなりますが、二十人規模までの医院では、増やすほど判断が遅くなります。
院長が持つのは、投資と採用と、医院の方向を決める判断です。ユニットを増やすか、分院を出すか、誰を採るか。ここは渡せません。
セカンドラインは、院長の次に判断する層です。日々の運営はここで完結させます。この層が育っていない医院では、組織図をどれだけ描いても機能しません。箱に入る人がいないからです。
現場は、決められた範囲で自分の仕事を進める層です。ここに判断を求めすぎると、経験の浅い人が固まります。逆に何も決めさせないと、指示待ちになります。どこまで決めてよいかを明示することが、この層でも要点です。
一人のセカンドラインが直接見る人数は、五人から七人までが目安です。それを超えると、面談も相談も回らなくなります。人数が増えたら層を深くするのではなく、セカンドラインを横に増やします。
副院長とマネージャーは、別の線で描く
歯科医院の組織図でつまずきやすいのが、ドクター側とスタッフ側をどう描くかです。
副院長は、ドクター側のセカンドラインです。診療方針、勤務医の指導、自費の治療計画。ここを見ます。マネージャーや主任は、スタッフ側のセカンドラインです。シフト、育成、日々の運営。見ているものが違います。
この二つを一本の線で上下に並べると、必ず衝突します。副院長がシフトに口を出し、主任が治療方針に意見を言う。どちらも悪意はありません。線が引かれていないだけです。
二本の線を並べて描き、交わる場所を明示してください。交わるのは、たとえば新人ドクターの教育です。診療の指導は副院長、勤務の管理は主任。同じ人を二人で見るなら、何をどちらが見るのかを先に決めます。
副院長という肩書きだけを先に渡して、うまくいかない医院は少なくありません。診療の腕が立つことと、人を動かせることは別だからです。何を任せ、何は院長が握り続けるのか。数字はどこまで見せるのか。判断が割れたときはどちらが決めるのか。ここを決めずに肩書きだけを渡すと、本人がいちばん苦しみます。
図に載らない仕事が、医院を止める
組織図を描いたあと、必ず確認していただきたいことがあります。どの箱にも入っていない仕事がないか、という点です。
滅菌器の管理、在庫の発注、ホームページの更新、求人票の作成、レセプトの点検。こうした仕事は診療の合間に誰かがやっていることが多く、組織図には現れません。そして、その人が辞めた瞬間に止まります。
棚卸しでつくった一覧を見ながら、どの箱にも当てはまらない仕事を拾い出してください。拾ったら、どこかの箱に入れる。入れる先がなければ、その仕事はやめるか、外に出すかを決めます。
院長が引き受けている名前のない仕事も、ここで見つかります。多くの場合、院長の時間がなくなっている原因は診療ではなく、この見えない仕事のほうです。
描いたあと、最初の三か月にやること
組織図は、貼り出した日から機能するわけではありません。最初の三か月が勝負です。
相談が院長のところに来たとき、答えずに「それは誰が決めることになっていましたか」と返してください。答えるほうが早いので、ほとんどの院長がここで戻します。戻した回数だけ、図は形だけのものになります。
渡した側が間違った判断をすることもあります。そこで取り上げると、二度と決めなくなります。結果ではなく、決め方を一緒に振り返る。次から何を見て決めるかを足す。これを三か月続けると、相談の量がはっきり減ります。
そして、半年に一度は描き直してください。人が増えれば形が変わります。チャンドラーの言うとおり、やることが変われば組織も変わります。一度描いて終わりにすると、図と現実がずれて、また誰も見なくなります。
よくあるご質問
何人くらいの医院から組織図が必要ですか?
院長を含めて5名を超えたあたりから必要になります。それ以下でも、院長が診療から離れる時間をつくりたいなら描く意味があります。人数ではなく、判断が院長に集中しているかどうかが目安です。
役職の名前はどう決めればよいですか?
名前は後で構いません。先に決めるのは、その箱で何を決めてよいかです。決めてよいことが定まってから名前をつけると、呼び名と中身がずれません。肩書きを先に渡すと、本人も周りも何を期待してよいか分からなくなります。
組織図はどれくらいの頻度で見直しますか?
半年に一度が目安です。人が入れ替わったとき、診療内容を増やしたとき、分院を検討しはじめたときは、その都度描き直します。一年以上そのままの組織図は、たいてい現実と合っていません。
この記事のまとめ
- 組織図は人員表ではなく、誰が何を決めてよいかを示した図
- 描く前に、一週間ぶんの判断を書き出して棚卸しする
- 箱には役職名ではなく、決めてよいことを一行で書く
- 層は院長・セカンドライン・現場の三つで足りる
- 副院長とマネージャーは別の線で描き、交わる場所を決めておく
- どの箱にも入らない仕事を拾い、入れるかやめるかを決める
- 描いたあとの三か月、相談を院長に戻さないことが要点
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