
役割分掌のつくり方
滅菌器の管理を誰がやっているか、すぐに答えられるでしょうか。在庫の発注は。求人票の作成は。こうした仕事は診療の合間に誰かがやっていることが多く、組織図には現れません。そして、その人が辞めた日に止まります。役割分掌とは、仕事に名前をつける作業です。
この記事の要点
- 組織図に現れない仕事が、医院を止める
- 棚卸しは仕事から。人から考えると抜ける
- 主担当は必ず一人。二人に丸をつけない
測定できないものは管理できない。
この言葉は数字の話として引かれることが多いのですが、仕事そのものにも当てはまります。誰がやっているか分からない仕事は、量も質も測れません。測れないものは、増えても減っても気づけません。役割分掌表は、仕事を見える形に置き直す作業です。
なぜ名前のない仕事が生まれるか
開業したばかりの頃は、院長がすべてをやります。人が増えるにつれて、手が空いている人がその都度引き受けていきます。悪いことではありません。そうやって医院は回ってきました。
問題は、引き受けた記録がどこにも残らないことです。本人だけが知っている仕事になります。五年経つと、誰も全体像を把握していない状態になります。
この状態は、その人がいる限り表に出ません。辞める、産休に入る、体調を崩す。そのときに初めて、名前のない仕事があったことが分かります。
役割分掌をつくる目的は、管理を厳しくすることではありません。誰かが抜けても続く状態にすることです。
仕事から棚卸しする
最初にやるのは棚卸しです。ここで順番を間違えないでください。人からではなく、仕事から始めます。
人から始めると、「Aさんの仕事」を書き出すことになり、誰もやっていない仕事が最後まで出てきません。仕事から始めれば、担当が空いている行が自然に残ります。
書き出し方は単純です。一日の流れに沿って、朝の開院準備から閉院後の片付けまでを順に並べます。次に、月に一度の仕事、年に一度の仕事を足します。レセプト、健診、機器の点検、求人。
このとき、一行が一つの仕事になる粒度で書いてください。「受付業務」では粗すぎます。「電話予約の受付」「保険証の確認」「会計と釣り銭の管理」まで分けると、抜けが見つかります。最初は30行から50行になります。
スタッフに書いてもらうのがいちばん速い方法です。自分がやっていることを一週間書き出してもらうと、院長が把握していなかった仕事が必ず出てきます。
主担当は一人にする
棚卸しができたら、行ごとに主担当を決めます。ここで守っていただきたいことが一つあります。主担当は必ず一人にすることです。
二人に丸をつけると、両方が「相手がやる」と考えます。掃除や片付けのような仕事ほど、この現象が起きます。誰の仕事でもない状態は、二人の仕事にした瞬間に生まれます。
副担当は置いて構いません。主担当が休んだときに動ける人、という意味です。ただし副担当は「代わりに入る人」であって、「一緒にやる人」ではありません。
決め方に迷ったら、いちばん近くでその仕事を見ている人にします。役職で決めると実態と合わなくなります。
決めてよい範囲も同じ表に書く
担当を決めただけでは、確認がなくなりません。その行で決めてよい範囲を、同じ表に書いてください。
「材料・器材の発注/主担当 チーフ/月10万円まで」。この一行で、チーフは10万円以内なら院長に聞かずに発注できます。超えるときだけ相談に来ます。
範囲を書くのは、渡す側を守る仕組みでもあります。書いていないことが起きたときに、誰が決めるかがはっきりするからです。
この列があると、役割分掌表は組織図と地続きになります。組織図の箱に書いた内容を、行単位まで細かくしたものが役割分掌表です。
担当が空いた行の扱い
表をつくると、必ず担当が決まらない行が出てきます。ここが、この作業のいちばんの収穫です。
空いた行には三つの道があります。誰かに渡す、やめる、外に出す。
まず、やめられないかを考えてください。長年続いているだけで、いま必要か確かめていない仕事があります。手書きの帳簿、誰も見ていない日報。やめれば、担当を決める必要がなくなります。
次に、外に出せないか。記帳、給与計算、ホームページの更新。専門の会社に出したほうが速く正確な仕事は少なくありません。
それでも残ったものを、誰かに渡します。このとき、その人の既存の仕事から何かを外してください。足すだけだと、その人が次に抜ける人になります。
表を置く場所と、見直す時期
完成した表は、スタッフルームに貼ってください。同じものを共有フォルダにも置きます。見えないところにしまうと、決めた意味がなくなります。
見直しは年に一度で足ります。ただし、人が入れ替わったとき、新しい診療を始めたとき、機器を入れ替えたときは、その都度その行だけ直します。
新しく入った人には、この表を最初に渡してください。自分の仕事の範囲が初日に分かることは、思っている以上に安心につながります。
役割分掌表は、管理のための書類ではありません。誰かが抜けても医院が続くための、いちばん基本的な備えです。
よくあるご質問
役割分掌表はどのくらいの粒度で書きますか?
一行が一つの仕事になる粒度です。「受付業務」では粗すぎます。「電話予約の受付」「保険証の確認」まで分けると抜けが見つかります。
主担当と副担当は必要ですか?
主担当は必ず一人にします。二人に丸をつけると、両方が相手がやると考えます。副担当は、休んだときに動ける人という意味で置きます。
決めた分掌はどこに置きますか?
スタッフルームに貼り、同じものを共有フォルダに置きます。見えないところに置くと、決めた意味がなくなります。
この記事のまとめ
- 組織図に現れない仕事が、担当者の退職で医院を止める
- 棚卸しは人からではなく仕事から。一日の流れに沿って並べる
- 一行が一つの仕事になる粒度で書く。30行から50行になる
- 主担当は必ず一人。二人に丸をつけると誰もやらなくなる
- 決めてよい範囲を同じ表に書くと、確認が減る
- 担当が空いた行は、やめる・外に出す・渡すの順で考える
この表を自院の組織図とつなげて考えるのが組織設計論です。2027年1月31日(日)に開催します。
