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頑張っている人ほど損をする医院

担当が一人に集まっている状態と、三人に分け直したあとの状態を並べた図

急な欠員の穴埋め、新人の指導、器材の管理。気づけば、いつも同じ人が引き受けている。院長先生は「あの方がいるから回っている」と感謝していらっしゃる。それでも、その方から辞意が出ることがあります。想定外に見えて、実はいちばん起きやすい形です。感謝は、抱えている仕事の量を減らしません。

この記事の要点

  • 辞意は、いちばん頼りにしていた人から出る。感謝と、抱えている量は別のもの
  • 偏りは能力のある人ほど大きくなる。一人に四つ以上集まったら、分ける合図
  • 担当表を先につくり、手当はそのあと。役職ではなく担当に付ける形にする

組織は、共通の目的、貢献しようとする意欲、意思の伝達の三つから成り立つ。

チェスター・バーナード経営学者

バーナードは、組織が成り立つ条件の一つに、人が進んで力を出そうとする気持ちを挙げました。この気持ちは、出した力がどこにも記録されないままでは続きません。担当を紙に載せるのは、貢献を見えるようにする作業です。

いちばん頼りにしていた人から、辞意が出る

ある医院で辞意を伝えてきたのは、院長先生がいちばん頼りにしていた衛生士でした。スタッフ二十名ほど、分院を一つ持ち、院長先生は両院を行き来している医院です。院長先生にとっては、まったくの想定外でした。

その方は、新人の指導も、器材の管理も、急な欠員の穴埋めも引き受けていました。院長先生は日ごろから「あの方がいるから回っている」と話していらっしゃいました。つまり、働きが見えていなかったわけではありません。

見えていなかったのは、量です。一つひとつは小さな頼みごとなので、頼んだ側の記憶に残りません。「ありがとう」は何度でも言えますが、仕事の量は一つも減りません。

こうした辞意は、相談が出た時点でもう決まっていることが多いです。この医院は三か月のうちに動いたので間に合いましたが、間に合わないほうが普通です。似た形の詰まりはお悩み別の解決事例集にもまとめています。

担当を書き出した直後の一覧。一人が十一の担当を持ち、ほかの人は担当なしだった状態
偏りは、能力のある人ほど大きくなります。四つを超えたら、分ける合図です。

その担当は、誰が決めたものでもなかった

話をうかがっていくと、その方が引き受けている仕事のほとんどは、誰が決めたものでもありませんでした。困ったときに動ける人が動く。その積み重ねで、一人に集まっていました。

偏りは、能力のある方ほど大きくなります。任せやすいからです。頼む側にも悪気はなく、その日いちばん確実に片づく相手に頼んでいるだけです。一日ごとに見れば、どの判断も正しいのです。

評価にも給与にも、その分は入っていませんでした。手当は役職に対して払う決まりで、その方は役職についていなかったからです。決まりが役職だけを見ていると、役職のない人の仕事はどこにも載りません。

紙に載らないものは、評価表にも出てきません。評価表に出てこないものは、面談でも話題になりません。目立たない仕事を引き受けている人ほど、評価の対象から外れていく。評価の側の整え方は歯科医院の人事評価は、給与のためにつくらないで扱っています。

一時間で、全員の担当を書き出す

この医院で最初にやったのは、誰が何を担当しているかを全員で書き出すことでした。かかった時間は一時間です。付せんに一つずつ書いて、名前ごとに貼っていくだけで足ります。

書き出したとき、院長先生がいちばん驚いていらっしゃいました。一人が十以上の担当を持っていたからです。周りのスタッフも、そこまでとは思っていませんでした。

二番目の方は三つ、三番目は二つ、そのほかの方は担当なし。こう並ぶと、忙しさの差が気持ちの差ではないことが、その場の全員に分かります。書き出すのは、辞意が出る前です。

目安を一つ挙げると、一人に四つ以上の担当が集まったら、分ける合図だと考えてください。四つを超えたあたりから、本人の中で優先順位がつけられなくなります。どれも中途半端になり、それを本人が自分の力不足だと受け取り始めます。

一人に集まった仕事を、三人に分ける

分けるときは、いっぺんに全部を動かさないでください。この医院では、十一あった担当のうち、まず新人の指導と器材の管理を別の方へ渡しました。渡した先も、それぞれ一人ずつです。

渡すときに決めたのは、引き継ぎの手順です。何を、いつまでに、どこまで教えるか。ここを決めずに「お願いします」と渡すと、渡した側が結局あとから見に行くことになり、担当が二重になります。

もう一つ決めたのは、急な欠員が出たときに誰が動くかです。当番制にしました。以前の「動ける人が動く」は、よく見れば、いちばん断りにくい方が動く決まりと同じでした。

分けたあと、その衛生士から出た言葉は「やっと自分の仕事に集中できます」でした。辞めたかったのではなく、限界だっただけでした。ここを読み違えて給与の話で引き止めようとすると、かえって話がこじれます。

手当は、役職ではなく担当に付ける

担当表ができてから、手当の決まりを直しました。役職に付ける手当はそのまま残し、担当に付ける手当を別につくる形です。役職は人を見る責任に対して、担当は医院の仕事を持っていることに対して付けます。

順番を逆にしないでください。手当から決めると、担当が手当を取るための名前になります。担当表を先につくり、医院に必要な仕事がそろって並んでいることを確かめてから、手当の話に移ります。

決めておくことが一つあります。担当は年に一度入れ替える前提にし、外れたら手当も外れる、としておくことです。ここを曖昧にすると、担当は一度付いたら外せないものになり、入れ替えができなくなります。

この医院では、その後、担当を引き受けたいという声が出るようになりました。自分の仕事に名前が付くと、人はそれを自分のものとして扱います。院長先生ご自身が抱えている仕事の分け方は事務長を置く前に決める三つのことでも扱っています。

よくあるご質問

書き出す場に、院長も入ったほうがよいですか?

入ってください。ただ、書く役ではなく聞く役でお願いします。院長先生が書き始めると、院長がご存じの担当しか並びません。書くのはスタッフ、線を引き直すのは院長、という分け方にすると続きます。

分けようとしたら、受け取る側から「できません」と言われました。

たいていは、どこまでやればよいのか分からないからです。引き継ぎの手順を紙にしてから、もう一度話してください。それでも難しいようなら、担当をさらに小さく割ってください。器材の管理なら、発注だけを渡すところから始められます。

担当手当は、いくらから始めればよいですか?

金額より、付ける形を決めるほうが先です。少額でも、担当に付くと決まっていることのほうが効きます。決めるときは、外れたら手当も外れることと、年に一度見直すことを、同時に決めておいてください。

この記事のまとめ

  • 辞意は、いちばん頼りにしていた人から出る。抱えている量は、感謝では減らない
  • 担当は誰かが決めたものではなく、動ける人が動いた積み重ねで一人に集まる
  • 全員で一時間、担当を書き出す。一人に四つ以上あれば、分ける合図
  • 引き継ぎの手順と欠員の当番を決めたうえで、手当を役職ではなく担当に付ける

この論点を体系的に扱うのが組織設計論です。2027年1月31日(日)に開催します。

萩原 直樹

この記事を書いた人

萩原 直樹経営学修士(MBA)/デンタルMBA 講座総括

歯科医院の経営を支える専門家として、全国の医院の経営支援に従事。戦略設計から組織構築、財務改善まで、経営の全体最適を支援する。

判断の質を上げることが、医院の未来を守る。

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