
歯科医院の人事評価は、給与のためにつくらない
人事評価の仕組みをつくったのに、スタッフのやる気が上がらない。むしろ評価の時期になると、医院の空気が重くなる。そういう相談を受けることがあります。仕組みが悪いのではありません。多くの場合、評価表を給与を決めるためだけに使っていることが原因です。
この記事の要点
- 評価表は、給与を決める道具である前に、医院が大事にしていることを伝える道具
- 本人が先に自己評価をつけ、院長とずれた項目だけを話し合う
- 次の半年で伸ばす項目を一つに絞る。給与はその積み重ねの結果として決める
組織の役割は、人の強みを成果に結びつけ、弱みを意味のないものにすることである。
評価というと、足りないところを指摘する場だと考えがちです。しかしドラッカーは、組織は弱みを直す場所ではなく、強みを生かす場所だと述べました。評価表も同じで、できていないことを並べる道具ではなく、伸ばす方向を示す道具として使うと働き方が変わります。
評価の時期に空気が重くなる理由
評価の時期に医院の空気が重くなるのは、スタッフにとって評価が一方的に点数をつけられる場になっているからです。
年に一度、院長が評価表に点数をつける。結果として給与が決まる。点数の理由は詳しく説明されない。こうなると、スタッフの記憶に残るのは点数の低かった項目だけです。
さらに、頑張ったつもりなのに点数が変わらないと、「何をしても同じ」という受け取り方が広がります。評価の仕組みを入れたことで、かえってやる気が下がるのはこのためです。
直し方は、評価表の中身を変えることではありません。使い方を変えることです。
項目は、医院が大事にしていることから書く
評価表の項目は、既製品をそのまま使わないでください。既製品には、どの医院にも当てはまることしか書かれていません。
項目をつくるときは、院長が「これだけは大事にしてほしい」と思うことを書き出すところから始めます。たとえば「患者さんに次回の来院理由を自分の言葉で伝えられる」「分からないことをその日のうちに聞く」「後輩に聞かれたら手を止めて答える」。
こうした項目は、医院ごとに違います。違うからこそ、評価表を読めば医院が何を大事にしているかが伝わります。評価表は、院長の考えを言葉にして渡す道具です。
項目は多くて15までにしてください。20を超えると、つける側も読む側も最後まで集中が続きません。職種ごとに分ける場合も、共通の項目を半分ほど残すと、医院としてのまとまりが出ます。
役割の書き方については役割分掌のつくり方で詳しく扱っています。
本人が先に評価をつける
評価の進め方で最も効果が大きいのは、本人に先に自己評価をつけてもらうことです。
本人が先につけると、院長の評価と並べたときに、ずれている項目がはっきりします。面談で話すのは、このずれている項目だけで十分です。全項目を順番に説明する必要はありません。
ずれには二種類あります。本人が高くつけていて院長が低い項目と、その逆です。前者は、院長の期待が伝わっていない項目です。後者は、本人が自分の強みに気づいていない項目です。
後者から話してください。「あなたはここを低くつけているけれど、私はよくできていると思っている」。この一言で、面談の空気が変わります。前者の話は、その後のほうが受け止めてもらえます。
次の半年で伸ばす項目を一つ決める
面談の最後に、次の半年で伸ばす項目を一つだけ決めます。三つ決めると、どれも中途半端になります。
決めるのは院長ではなく本人です。院長は候補を二つか三つ示し、本人に選んでもらいます。自分で選んだ目標は、人から与えられた目標より長く続きます。
決めた項目は、紙に書いて本人に渡してください。半年後の面談は、この紙を見るところから始めます。できるようになったことを言葉にして返すと、評価の場が「次に何を頑張ればいいかが分かる場」に変わります。
半年に一度が負担であれば、年に一度でも構いません。ただし間隔が空くほど、何を約束したかが薄れます。忙しい医院ほど、面談の日を先に予定に入れておくことをおすすめします。
給与との結びつけ方
評価と給与の結びつけ方で失敗が多いのは、最初から細かく連動させる事例です。1点上がったら何円、と決めると、評価の場が給与交渉の場になります。
おすすめは、評価は目標を決めるために使い、給与は年に一度、それまでの評価の積み重ねを見て決める、という順番です。評価の点数と給与の額が一対一で結びついていないほうが、評価そのものに向き合ってもらえます。
それでも、何をすれば給与が上がるのかは示す必要があります。そのときは点数ではなく、「この項目ができるようになったら、この役割を任せる。役割が変われば手当がつく」というように、役割と給与を結びつけると分かりやすくなります。
評価の仕組みは、つくって終わりではありません。一年回してみて、項目を見直すところまでが一回です。
よくあるご質問
評価表は既製品を使ってもよいですか?
最初のたたき台としては使えます。ただし、そのまま使うと自院が大事にしていることが入りません。既製品から項目を半分に減らし、残りを自院の言葉で書き直すところから始めるとよいです。
評価のたびにスタッフが不満を言います。
点数の理由が伝わっていない可能性が高いです。本人に先に自己評価をつけてもらい、院長の評価とずれた項目だけを話し合う形にすると、不満の多くは「話を聞いてもらえなかった」ことから来ていたと分かります。
評価と給与はどう結びつければよいですか?
最初から細かく連動させないほうがうまくいきます。評価は次の目標を決めるために使い、給与は年に一度、半年ごとの評価の積み重ねを見て決める。この順番にすると、評価の場が給与交渉の場になりません。
この記事のまとめ
- 評価の時期に空気が重くなるのは、評価が一方的に点数をつけられる場になっているから
- 項目は既製品を使わず、院長が大事にしていることから書く。多くて15まで
- 本人が先に自己評価をつけ、ずれた項目だけを話し合う。強みの話から入る
- 次の半年で伸ばす項目を一つ決め、給与は役割の変化と結びつける
この論点を体系的に扱うのが人材マネジメント論です。2027年3月28日(日)に開催します。
