
歯科医院の採用は、求人票の前に決まる
求人を出しても応募が来ない。来ても面接に来ない。採用しても半年で辞める。歯科医院の院長から、いちばん多く受ける相談のひとつです。多くの医院は、ここで求人票の書き方や媒体の選び方を変えようとします。しかし、うまくいかない医院に共通しているのは、書き方ではありません。誰に来てほしいのかが、医院の中で決まっていないのです。
この記事の要点
- 採用の前に、「何をしてほしいか」「どんな人と合うか」「何を約束できるか」を決める
- 求人票に書く内容と面接で確かめることは、この三つから自然に決まる
- 約束できないことを書くと、入ってから辞める
最初に適切な人をバスに乗せ、そのあとでどこへ向かうかを決める。
コリンズは、飛躍した企業の多くが、戦略より先に「誰と働くか」を決めていたと述べました。歯科医院に置き換えると、どんな医院にしたいかを考える前に、誰と一緒にそれをやるかを決める、ということです。採用はその入口にあたります。
応募が来ない医院に共通すること
応募が来ない医院の求人票を並べてみると、似た書き方になっていることがよくあります。「アットホームな職場です」「未経験でも丁寧に指導します」「残業少なめ」。どれも間違いではありませんが、ほかの医院とほとんど見分けがつきません。
見分けがつかない求人の中から選ばれるのは、給与が高いところか、家から近いところです。つまり条件の勝負になります。条件で勝てない医院は、ここで応募が止まります。
では何を書けばよいのか。答えは求人票の外にあります。院長とスタッフが、どんな人に来てほしいかを同じ言葉で言えるかどうかです。言えない医院の求人票は、誰にも向けていない文章になります。
反対に、来てほしい人がはっきりしている医院は、書く内容が具体的になります。具体的な求人は、合わない人には響かず、合う人には強く響きます。応募の数は減っても、面接に来る人の質が上がります。
一つ目 何をしてほしいか
最初に決めるのは、入った人にどの仕事を任せたいかです。ここで大事なのは、業務の一覧を書かないことです。
「スケーリング、TBI、SPT、アシスト」と並べても、それはどの医院でも同じです。書くべきなのは、入って3か月後、1年後にどの判断まで任せたいかです。
たとえば「1年後にはメンテナンスの患者さんを担当として持ち、次回の来院間隔を自分で決められるようになってほしい」。こう書くと、それを望む人が応募してきます。任されたくない人は応募しません。どちらも医院にとって得です。
この問いには、院長だけで答えないでください。いま同じ仕事をしているスタッフに聞くと、院長が思っているのとは違う答えが返ってくることがあります。そのずれを先に揃えておかないと、入ってから新人が板挟みになります。
二つ目 どんな人と合うか
次に決めるのは、どんな人がこの医院で活躍しているかです。いまいるスタッフのうち、院長が「この人に続けてほしい」と思う人を二、三人思い浮かべてください。
その人たちに共通することを書き出します。多くの場合、技術の高さではありません。報告の仕方、困ったときの動き方、患者さんへの向き合い方に共通点が出ます。
ある医院では、長く続いている衛生士の共通点が「分からないことを、その日のうちに聞く」でした。反対に早く辞めた人は、困っていても言わずに抱え込む傾向があった。この医院は、面接で「前の職場で困ったとき、誰に相談しましたか」と聞くようにしました。
この共通点は、求人票には書きにくいものです。書くのではなく、面接で確かめる項目にします。
三つ目 何を約束できるか
最後に決めるのは、医院が何を約束できるかです。給与、休日、勤務時間はもちろんですが、それだけではほかの医院と比べられて終わります。
比べられにくいのは、教える体制、相談できる相手、評価の基準です。「入職から3か月は担当の先輩がつきます」「半年に一度、院長と面談して次の目標を決めます」。こうした具体的な約束は、条件の比較から一歩外に出られます。
ここで気をつけたいのは、約束できないことを書かないことです。教える体制が実際には整っていないのに「丁寧に指導します」と書くと、入った人は最初の一か月で違いに気づきます。「聞いていた話と違う」は、早期退職の理由として最も多いもののひとつです。
書かない勇気が、定着率を上げます。まだ整っていないことは、整えてから書けば十分です。
面接では、困ったときの動き方を聞く
面接は、応募者を選ぶ場であると同時に、応募者が医院を選ぶ場でもあります。院長だけで面接をせず、一緒に働くことになるスタッフにも同席してもらうと、双方の見立てが揃います。
聞くことは、二つ目で書き出した共通点に沿って決めます。おすすめは、過去の具体的な場面を聞くことです。「チームワークを大事にしますか」と聞けば、誰でも「はい」と答えます。「前の職場で、先輩と意見が合わなかったとき、どうしましたか」と聞けば、その人の動き方が見えます。
答えの内容の良し悪しより、話し方に注目してください。誰かのせいにしているか、自分が何をしたかを話しているか。後者の人は、入ってからも困りごとを言葉にしてくれます。
採用がうまくいくと、次は受け入れです。入ってからの90日の過ごし方は新人は、最初の90日で決まるで扱っています。
よくあるご質問
求人媒体はどれを使えばよいですか?
媒体選びより先に、誰に来てほしいかを決めてください。それが決まると、その人が見ている場所が自然に絞れます。衛生士の新卒なら学校、経験者なら専門の求人サイトや紹介、というように分かれます。
給与を上げれば応募は増えますか?
一時的には増えます。ただ、給与だけで選んだ人は、より高い条件が出たときに移ります。給与は地域の相場に合わせたうえで、教える体制や任せる範囲など、ほかの医院と比べられない点を書くほうが定着につながります。
面接では何を聞けばよいですか?
前の職場で困ったとき、どう動いたかを具体的に聞いてください。答えの良し悪しより、困りごとを誰にどう伝えたかが分かります。それが自院のやり方と合うかどうかを見ます。
この記事のまとめ
- 応募が来ないのは、書き方より「誰に来てほしいか」が決まっていないことが原因
- 先に決めるのは、何をしてほしいか・どんな人と合うか・何を約束できるかの三つ
- 約束できないことは書かない。入ってからの違和感が早期退職につながる
- 面接では過去の具体的な場面を聞き、困ったときの動き方を確かめる
この論点を体系的に扱うのが人材マネジメント論です。2027年3月28日(日)に開催します。
