
歯科医院経営は、何から学ぶか
経営を学ぼうと思ったとき、多くの院長がまず集患から入ります。売上を上げたいのだから患者さんを増やす。順番として自然に見えますが、ここから入った医院の多くが、一年後に同じ場所に戻ってきます。順番には理由があります。
この記事の要点
- 学ぶ順番は、数字を読む → 組織を設計する → 患者を増やす
- 集患から入ると、増えた分を受け止められずにもとに戻る
- 本・単発セミナー・講座・経営支援は、届く深さで使い分ける
測定できないものは、管理できない。
よく引かれる一文ですが、歯科医院ではとくに重く働きます。人件費率も、キャンセル率も、スタッフの定着率も、測っていなければ良くも悪くもなりません。学ぶ順番の一番目に数字が来るのは、そこから先の全部が数字の上に乗るからです。
集患から入ると、なぜ戻るのか
集患の打ち手は、効果が早く出ます。ホームページを整え、広告を出し、看板を変えれば、数か月で新患数は動きます。だから最初に手をつけたくなります。
問題はそのあとです。
新患が月20名増えると、アポイント枠が埋まります。埋まると既存の患者さんの予約が取りにくくなり、キャンセルと中断が増えます。受付は電話対応に追われ、衛生士は一人あたりの担当が増えます。
ここでスタッフが一人辞めます。すると残った人の負担がさらに増え、連鎖します。採用を始めますが、すぐには埋まりません。半年後、医院は疲れきっていて、新患数だけが残っています。
院長はここで「集患はうまくいったのに、なぜ良くならないのか」と考えます。答えは、増えた分を受け止める形を作っていなかったからです。
順番を入れ替えるだけで、この往復はなくなります。
第一に、数字を読む
最初に学ぶのは、自院の数字を読むことです。会計事務所に任せきりで、決算書を年に一度眺めるだけという状態からは抜けてください。
必要なのは簿記の知識ではありません。毎月、同じ項目を同じ形で並べること。それだけです。
医業収入、新患数、キャンセル率、自費率、人件費率。まずこの五つで足ります。エクセルでもノートでも構いません。半年並ぶと、自院の癖が見えてきます。
ここが一番目に来る理由は二つあります。一つは、どこに問題があるのかが数字を見ないと分からないこと。集患が課題だと思っていたら、実は中断率のほうが深刻だった、という医院は珍しくありません。
もう一つは、打った手が効いたかどうかを判断する土台になることです。数字を取っていなければ、来年も同じことを勘で決めることになります。
決算書の読み方は決算書のどこを見るかで、人件費の見方はスタッフが辞める理由で扱っています。
第二に、組織を設計する
二番目は組織です。ここが、集患に手をつける前の受け皿になります。
組織を設計するというのは、採用することではありません。いまいる人で、誰が何を決めてよいかを決めることです。
院長が全部を決めている医院では、医院の規模は院長の処理能力で頭打ちになります。患者さんが増えても、判断が院長に集まるので流れません。
ですから、判断を渡す相手を作ります。セカンドラインと呼ばれる層です。三人いれば、院長が見るのは三人で済みます。
ここには順番があります。組織図を書く、役割を言葉にする、決めてよい範囲を決める、会議で運用する。この流れを組織図を書く、役割を言葉にする、任せ方の設計、会議体を三つに分けるに分けて書きました。
組織に手をつけると、数か月は数字が動きません。任せる側も任される側も慣れるのに時間がかかるからです。ここで焦って集患に戻ってしまう医院が多いのですが、踏みとどまってください。
第三に、患者を増やす
数字が見えていて、判断を渡せる人がいる。この状態になってから集患に手をつけると、増えた分がそのまま残ります。
受け皿ができているので、アポイントが埋まっても受付が判断できます。衛生士の担当が増えても、チーフが調整できます。院長は判断の一部だけを見ればよくなります。
そしてもう一つ、数字を取っているのでどの打ち手が効いたかが分かります。ホームページを変えたのか、看板なのか、紹介が増えたのか。分かれば、来年は効いたほうに寄せられます。
同じ広告費を使っても、一番目と三番目では戻ってくるものがまったく違います。
なお、この順番は「集患を三年後まで我慢する」という意味ではありません。数字を取り始めるのに一か月、組織の形を決めるのに三か月。半年もあれば三番目に進めます。
手段を使い分ける
学ぶ手段は四つあります。本、単発セミナー、体系講座、経営支援。費用も、届く深さも違います。
本は、考え方を知るのに向いています。数千円で読めますが、自院に当てはめる作業は全部自分でやることになります。
単発セミナーは、一つのテーマを半日で扱います。その場で質問できるのが本との違いです。課題がはっきりしているときに効きます。
体系講座は、順序立てて学びます。回と回のあいだに自院で試す時間があるので、当てはめる作業が講座のなかで進みます。
経営支援は、現場に入って一緒に動かします。実行まで伴走するので最も深く届きますが、費用はいちばんかかります。
右に行くほど良いという話ではありません。本で足りることに月20万円を払う必要はありませんし、伴走が要る局面で本を読んでも動きません。
三年という時間の見方
経営を学んで医院が変わるまでに、どのくらいかかるか。よく聞かれます。
考え方を一通り押さえるのに一年。それが医院の形になって数字に出るまでに、さらに二年ほど。合わせて三年が一つの目安です。
三年と聞くと長く感じるかもしれません。ただ、院長という仕事は二十年、三十年と続きます。そのうちの三年です。
そして、この三年で身につくのは打ち手ではなく判断の型です。打ち手は五年で古くなりますが、判断の型は古くなりません。保険点数が変わっても、人が採れない時代になっても、同じ順番で考えられます。
短期の成果を求める時期もあってよいと思います。ただ、長期で医院を作っていきたいと考えている方には、順番を守って学ぶほうが、結果として早く着きます。
よくあるご質問
集患から学んではいけないのですか?
いけないわけではありません。ただ、患者さんが増えたあとに受け止める体制がないと、スタッフが疲れて辞め、採用からやり直すことになります。先に受け皿を作るほうが、結果として早く済みます。
数字が苦手でも大丈夫ですか?
必要なのは簿記の知識ではなく、自院の数字を毎月同じ形で見る習慣です。医業収入、新患数、人件費率など五つほどを毎月並べるところから始めれば十分です。
学ぶのに何年かかりますか?
考え方を一通り押さえるのに一年、それが医院の形になって数字に出るまでにさらに二年ほどが目安です。三年を長いと感じるか妥当と感じるかは、何を目指すかによります。
開業したばかりでも学ぶ意味はありますか?
あります。むしろ人数が少ないうちのほうが、組織の形を変えるのは簡単です。人が増えてから直すほうが手間がかかります。
この記事のまとめ
- 順番は、数字を読む → 組織を設計する → 患者を増やす
- 集患から入ると、増えた分を受け止められずに戻る
- 数字は毎月、同じ五項目を並べるところから
- 手段は費用ではなく、届く深さで選ぶ
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