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できる人が、育てる人になるまで

自分でやる・見せる・任せる・決めさせる・育てるの五段階を右肩上がりの線で示した図

いちばん仕事ができる衛生士をチーフにしたら、チームがうまく回らなくなった。本人は忙しくなるばかりで、後輩は育たない。そういう話は珍しくありません。仕事ができることと、人を育てられることは別の力です。できる人が育てる人になるまでには、段階があります。

この記事の要点

  • プレイヤーからマネージャーへは、五つの段階を一つずつ上がる
  • 段を飛ばすと、忙しくなった時期にもとの段に戻ってくる
  • 院長自身が同じ段で止まっていないかも確かめる

マネージャーの成果とは、自分の組織の成果と、自分が影響を及ぼす周りの組織の成果の合計である。

アンドリュー・S・グローブ経営者

グローブは、マネージャーの仕事を「自分が何をしたか」ではなく「自分の周りが何を成し遂げたか」で測るべきだと述べました。プレイヤーとして優秀な人ほど、この物差しの切り替えに苦労します。自分で手を動かしたほうが、成果が目に見えるからです。

できる人をリーダーにすると崩れる理由

仕事ができる人をリーダーにすると、たいてい次のことが起きます。後輩に任せるより自分でやったほうが早いので、つい手を出す。後輩は任されないので育たない。結果として、リーダーの仕事量だけが増えていく。

これは本人の問題ではありません。プレイヤーとして評価されてきた人に、何の準備もなくマネージャーの役割を渡したことが原因です。

プレイヤーからマネージャーへの変化は、一度に起きるものではありません。自分でやる、見せる、任せる、決めさせる、育てる。この五つの段階を、一つずつ上がっていきます。

段を飛ばすとどうなるか。医院が忙しくなった時期に、もとの段に戻ってきます。「結局、自分でやったほうが早い」。この一言が出たら、段が飛んでいたサインです。

マネージャーが育つ五つの段階:自分でやる、見せる、任せる、決めさせる、育てる
一段ずつ上がる期間を、院長が意図してつくります。

見せる なぜそうするかを言葉にする

最初の段階は、自分でやることが安定していることです。これは前提なので、ここでは二段目の「見せる」から始めます。

見せるとは、隣でやってみせることです。ただし、黙ってやるだけでは見せたことになりません。なぜそうするのかを言葉にしながらやることが大事です。

できる人ほど、自分がなぜそうしているかを意識していません。体が覚えているからです。「この患者さんには、先に歯周病の話をしてから清掃の話をする。前回、清掃から入ったら反応が薄かったから」。こうして理由を言葉にすると、後輩は手順ではなく判断を学べます。

この段階で院長ができることは、「なぜそうしたの?」と聞くことです。聞かれることで、できる人は自分の判断を言葉にする練習ができます。

任せる 手を出さずに見守る

三つ目の段階は、任せることです。ここで多くの人が苦労します。

任せるとは、手を出さずに見守ることです。後輩が自分より遅くても、多少うまくいかなくても、口を挟まない。失敗したら、やり直すのも後輩本人です。

できる人にとって、これはとても我慢の要ることです。見ていられない、患者さんに迷惑がかかる、と感じます。だからこそ、任せる範囲を最初に決めておくことが大事です。「患者さんの安全に関わることは止める。それ以外は見守る」。線を引いておくと、見守りやすくなります。

任せる範囲の決め方は院長が権限をどこから渡すかと同じ考え方です。院長がスタッフに任せるときも、スタッフが後輩に任せるときも、構造は変わりません。

決めさせる 自分の正解を押しつけない

四つ目は、決めさせることです。任せるとの違いは、やり方の判断まで相手に渡すところにあります。

任せる段階では、やることは決まっていて、それを後輩がやります。決めさせる段階では、どうやるかも後輩が決めます。自分とは違うやり方を選んでも、結果が出ていれば認めます。

ここで止まる人が最も多くいます。自分の正解を持っている人ほど、違うやり方を受け入れにくいからです。「私ならこうする」を飲み込めるかどうかが、マネージャーになれるかどうかの分かれ目です。

そして院長自身も、この段で止まっていないか確かめてください。チーフに決めさせているつもりで、実は院長が最終的な判断を握っている。そういう医院では、チーフも同じように後輩に決めさせることができません。

育てる 次の人を教えられるようにする

最後の段階は、育てることです。自分が教えた後輩が、次の人を教えられるようになる。ここで初めて、マネージャーと呼べる状態になります。

この段階まで来ると、マネージャー自身が現場にいなくても仕事が回ります。院長が1か月不在でも医院が回るかどうか、という問いと同じ構造です。

院長にできることは、マネージャーの成果を「自分が何をしたか」ではなく「チームが何をできるようになったか」で評価することです。評価の物差しが変わらないと、マネージャーはプレイヤーに戻ります。

判断を任せられる人を複数育てる考え方はセカンドラインの育て方で、新しく入った人を迎える側の準備は新人は、最初の90日で決まるで扱っています。

よくあるご質問

いちばん仕事ができる人をリーダーにしてはいけませんか?

いけないわけではありません。ただ、仕事ができる人ほど自分でやったほうが早いと感じ、任せることに苦労します。リーダーにする前に、見せる・任せるの段階を経験してもらうと、失敗が少なくなります。

マネージャーに手当はつけるべきですか?

つけたほうがよいです。役割が変わったことを形にして示すためです。金額より、役割の中身と手当を結びつけて説明することが大事です。

院長自身が任せるのが苦手です。

多くの院長が同じ悩みを持っています。まずは結果の確認だけをする、と決めて、やり方には口を出さない期間を1か月つくってみてください。院長が任せ方を練習することが、マネージャーが育つ前提になります。

この記事のまとめ

  • できる人をリーダーにして崩れるのは、準備なく役割を渡したことが原因
  • 自分でやる・見せる・任せる・決めさせる・育てるの五段階を一つずつ上がる
  • 最も止まりやすいのは「決めさせる」。自分の正解を飲み込めるかが分かれ目
  • マネージャーの成果は、チームが何をできるようになったかで評価する

この論点を体系的に扱うのが人材マネジメント論です。2027年3月28日(日)に開催します。

萩原 直樹

この記事を書いた人

萩原 直樹経営学修士(MBA)/デンタルMBA 講座総括

歯科医院の経営を支える専門家として、全国の医院の経営支援に従事。戦略設計から組織構築、財務改善まで、経営の全体最適を支援する。支援実績40医院。

判断の質を上げることが、医院の未来を守る。

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