
新人が辞めるのは、教える人が決まっていないから
入職して半年のうちに辞める方が続くと、採用のやり方を疑いたくなります。面接を増やし、求人の文章を書き直し、それでもまた辞める。けれども辞めているのが新人ばかりで、数年働いた方は誰も辞めていないなら、原因は入ってからの三か月の側にあります。多くの場合、そこには同じ抜けがあります。教える人が、決まっていないのです。
この記事の要点
- 入って半年で辞める前ぶれは、質問が減ること。慣れたのではなく、聞くのをやめている
- 教える人が日替わりだと、教える中身は「直す」ことに寄る。新人は自分が悪いのだと受け取る
- 入職から三か月、教える担当を一人に固定する。順番を紙一枚にし、毎週十分を予定表に入れる
成果をあげる者は、仕事からスタートしない。時間からスタートする。
ドラッカーは、成果は意欲の強さではなく時間の使い方から生まれると書きました。新人を教える仕事は、誰の担当でもないうちは、忙しい日に必ず後回しになります。担当と時間を先に決めてしまうことが、教える内容を工夫するより先にくる手順です。
新人が辞める前の三か月に、何が起きているか
退職の相談を受けたとき、多くの院長先生が理由をおたずねになります。返ってくるのは「家庭の事情で」「別のことに挑戦したくて」。辞めると決めた人は、もう波風を立てたくありません。円満に出ていきたいので、角の立たない理由を選びます。
ですから、退職の面談で集めた理由をいくら並べても、次の退職は止まりません。見るのは、辞めた人の言葉ではなく、辞める前の三か月に何が起きていたかです。新人の場合、前ぶれはほとんど同じ形で出ます。質問が減るのです。
院長先生の目には、それが「だいぶ慣れてきた」と映ります。実際には、聞くのをやめていただけでした。聞くと直される、という経験が続くと、人は聞かなくなります。
弊社が支援した医院に、入職半年以内の退職が三年続いていたところがありました。院長先生は「最近の若い方は続かない」とおっしゃっていました。ただ、辞めていたのは新人ばかりで、何年か働いた方は一人も辞めていません。同じ形の詰まり方はお悩み別の解決事例集にもまとめています。
教える人が日替わりだと、何が起きるか
その医院では、新人は入職した日から診療に入っていました。教える人は決まっておらず、その日いちばん手の空いている先輩が教えます。冷たい医院だからではありません。手が空いた人が助ける習慣がある医院ほど、こうなりがちです。
困るのは、日によって教える人が変わることです。昨日「こうして」と言われたやり方を、今日は別の先輩に直される。どちらが正しいのかを聞ける相手がいないまま、新人は自分のやり方が悪いのだと受け取っていきます。
先輩の側にも無理があります。今日たまたま教えることになった相手が、先週どこまでできるようになったのかを知りません。だから、目の前で気づいたことだけを直します。教える人が日替わりになると、教える中身は「直す」ことに寄っていきます。
これが三か月続くと、新人は質問の代わりに顔色をうかがうようになります。ここで残るか辞めるかは、本人の粘り強さの差でしかありません。粘る方を採ることで埋めようとすると、採用にいくら手をかけても追いつきません。採用の前に決めておくことは歯科医院の採用は、求人票の前に決まるで扱っています。
三か月だけ、教える担当を一人に固定する
この医院で最初にやったのは、入職から三か月間、教える担当を一人に固定することでした。教える内容そのものは、それまでと何も変えていません。
変わったのは、新人が誰に聞けばよいか分かったことです。分からないことを、誰に言っても悪くない相手が一人いる。それだけで、質問は戻ってきます。
担当になった先輩の側も変わりました。自分が教える期間だと分かっているので、時間を取るようになります。以前は誰の仕事でもなかったので、忙しい日には結局誰も教えていませんでした。教える仕事は、担当がいないと真っ先に消えます。
担当を選ぶときは、いちばん技術のある方ではなく、同じ説明を二度できる方を選んでください。そして、担当になった方が持っていた仕事を一つ減らしてください。教える時間は、どこからか湧いてくるものではありません。
三か月で何をできるようにするかを、紙一枚にする
担当を決めたら、次は順番です。入職後三か月で何をできるようにするかを、週ごとに並べた紙を一枚つくります。項目をたくさん書く必要はありません。
この医院の紙は、こうなっていました。一週目は器具の場所と名前、朝と夜の準備が一人でできる。二〜三週目はアシストにつき、使う器具を先に出せる。一か月目に担当と二人で、できたこと・できていないことを確かめる。二か月目は決まった流れの処置を、見守りありで一人でやる。
大事なのは、回数ではなく「できている状態」で書くことです。「五十回やったら次」と書くと、数をこなすことが目的になります。できている状態で書いてあれば、担当が休んだ日に別の方が見ても、順番が崩れません。
この紙は、院長先生ではなく教える側につくってもらってください。院長がつくった紙は、現場の時間に合わないことが多いのです。受け入れの進め方そのものは新人は、最初の90日で決まるで詳しく扱っています。
毎週十分と、三か月目の三十分を先に予定表へ
もう一つやったのは、話す時間を予定表に入れることでした。毎週十分、担当と新人が二人で話す時間。そして三か月目に、院長先生が三十分だけ面談する日。どちらも、先に予定表へ入れてしまいます。
忙しいから話せないのではありません。予定に入っていないから話せていないだけです。十分あれば、今週できるようになったことと、まだ引っかかっていることの二つは聞けます。
三か月目の三十分は、院長先生が見ていることを本人に伝える時間です。点をつける場ではありません。この三か月で何ができるようになったかを確かめ、次の三か月で何を目指すかを一つ決めて終わります。
ここまでに、費用はかかっていません。担当を決め、順番を紙にし、時間を予定表へ入れただけです。この医院では翌年から、入職半年以内の退職がなくなりました。二年目以降も続いています。効いたのは新しい制度ではなく、決めごとの抜けを埋めたことでした。
よくあるご質問
教える担当は、何年目の人に任せればよいですか?
三年目以降なら足ります。ただ、技術がいちばんの方より、同じ説明を二度できる方を選んでください。一度目で伝わらないのは、教える側にとっても普通のことです。それから、担当になった方の仕事を一つだけ減らしてください。教える時間は、どこからか湧いてきません。
担当が休んだ日や、シフトが合わない日はどうしますか?
紙があれば、別の方でも続けられます。そのために順番を書いておきます。ただ、決めごととして担当は一人のままにしてください。代わりに見た方が、その日に何をしたかを担当へ一言伝える形にすると、翌週がつながります。
すでに三か月を過ぎた新人には、いまから何ができますか?
遅くはありません。まず、いま誰に聞いているかを本人におたずねください。「誰にも聞いていません」と返ってきたら、そこが手をつけるところです。担当を決めて、毎週十分の時間を取るところから始めれば、質問は戻ってきます。
この記事のまとめ
- 新人が辞める前ぶれは、質問が減ること。慣れたのではなく、聞くのをやめている
- 教える人が日替わりだと言われることが変わり、新人は自分が悪いのだと受け取る
- 入職から三か月は、教える担当を一人に固定する。担当が持っていた仕事は一つ減らす
- 三か月でできるようにすることを紙一枚にし、毎週十分と院長の三十分を予定表に入れる
この論点を体系的に扱うのが人材マネジメント論です。2027年3月28日(日)に開催します。
